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花園大学・東京禅センター共催 特別企画
「科学と仏教の接点W」
心はフラクタルか

講座レポート
2010.5.29

昨年十月に開催された第三回「科学と仏教の接点」に引き続き、平成二十二年五月二十九日に第四回「科学と仏教の接点」(心はフラクタルか)が開催されました。
今回は前回の東京大学駒場キャンパスより会場を移して野沢龍雲寺様の本堂を使わせていただきましたが、当日は150名を超える受講者で会場一杯の盛況となりました。
今回の講座は前回に引き続き合原一幸先生(東京大学教授)をお招きして、佐々木閑先生(花園大学・仏教学者)とお話しいただきました。合原先生には前回時間の都合上触れられなかった「フラクタル」という「カオス」と共に宇宙を形作るもう一つの原理について合原一幸先生(東京大学・数理工学)に映像を交えて詳しくお話いただきました。以下に簡単にですが紹介させていただきます。

佐々木 閑 先生

仏教の世界観
最初に佐々木先生よりお釈迦様の仏教(初期仏教)についてお話がありました。
仏教の特徴の一つに「因果」という概念がありますが、初期仏教では原因と結果の自動的つながり(因果)でのみ世界はうごいており、そのため他の宗教と違い絶対的存在(神)を想定しておらず、この世を作り動かす者は存在しないと考えられていました。
お釈迦様の生きた二千五百年前のインドでは数学理論を使った科学はありませんでしたが、お釈迦様の物事を理(因果)で見ていくという基本的な立場は、おおもとで科学に通じていたといえます。
また、仏教の世界観の特徴に、「時間」に関して言えば「輪廻」の世界観に代表されるように永遠に生まれ変わりが続く「無限の過去から無限の未来へ、始めも終わりも無い」という考え方が、「空間」に関していえば、我々の住む世界が一つ内にあり、外には無限の暗黒があるという考え方がありました。(後世、大乗仏教が出てくると「空間」にある世界も無限と考えられるようになります。)
仏教ではこのように寄りかかるすべの無い、誰も助けてくれる者(絶対者・神)がいない因果による世界で無限に広がる「時間」「空間」の中、無限に生きること(輪廻)が想定され、最高の苦しみである無限の輪廻を断ち切るために修行をし涅槃を目指しました。
仏教の世界観では私たちの存在はたくさんの要素が集まり、「刹那」という時間の単位で一瞬一瞬が区切られ、それぞれ全く繋がりが無いと考えられました(刹那滅)。
しかし我々は「わたし」に連続性があることを疑いません。それは要素の集合体がなにか一つの形をとり続けているからだと考えられ、仏教で言う涅槃に入るとは、その連続性・一貫性を断ち切ることをいいます。
佐々木先生は科学的な世界観(ここではカオス・フラクタルを含む複雑系の理論)の中で修行(人的な手段)により連続性・一貫性を断ち切り完全に要素に分解された状態(涅槃)になることは可能であるのか合原先生に科学の方面から意見をもとめられました。

合原 一幸 先生

宇宙を司る理論
合原一幸先生には、はじめにバタフライ効果(初期値の違いが時間とともに広がっていく)等の話しを交え前回のカオス理論のおさらいをしていただき、次に「フラクタル」についてお話いただきました。
「フラクタル」とはカオスを特徴付けるために非常に重要な幾何学の概念で、全体を縮小した部分の和(自己相似性)により出来る図形で表されます。自然界でもカリフラワーやシダの葉っぱ、海岸線や人の腸や血管の構造等、いろいろな場所で限られた範囲ですがフラクタル的な現象が起こっていると考えられます。
「フラクタル」は数学的にはマンデルブロー集合・コッホ曲線・カントール集合・シェルピンスキーギャスケット・ジュリア集合等の様々な幾何学図形をとります。今講座ではプロジェクターを使って簡単な決定論の数式により無限に広がっていくカオスやそれにより起る複雑なフラクタル的な幾何学図形について映像と数式とともに解説していただきました。
フラクタルの解説の後、休憩を挟み合原先生より前回と今回で説明していただいたカオス・フラクタルが作り出す複雑系について、ニュートンから始まる自然科学が、現在の生命や経済・社会システムなどの組織化された複雑さの問題研究(カオス・フラクタルを含む数理工学)につながってきているという複雑系の変遷の歴史の説明がありました。
前に佐々木先生よりその複雑系(仏教で言う単なる要素の集まりである人間と連続性・一貫性を感じる「わたし」)を仏教の修行のような人為的な操作を加えることにより完全な平衡状態(仏教で言う涅槃)に持っていくことは可能なのかという質問がありましたが、合原先生によると現在でも数学的にはカオスの「制御」、カオス・フラクタルの中にある統一性を止め、完全平衡状態にすることは可能とのことです。
しかし「制御」は一方でカオスの面白さである動的な力(ダイナミズム)も殺してしまいます。そこで合原先生は最近生命システムの研究の中で使われているカオスのダイナミズムを活かして制御する方法「ハーネス」という概念を取り上げました。
「ハーネス」に関して合原先生は、神経系の可塑性の問題で上手に問題に合うようにフラクタル構造を設定し(ハーネス)より良いカオスを導き出すことが宗教的な問題の解決(仏教の修行による良い神経系への改良など)に役に立つのではないかと科学の可能性を示唆されました。
佐々木先生は最後に、科学的手段の無い釈迦の時代は瞑想などの精神の集中により「わたし」を分解・再構築してきたが、それ以降の仏教の精神分析は進化し尽くし、現代の仏教に行き詰まり感があるが、今回のカオスやフラクタル等のように現実世界に即した科学分野の進歩は仏教に新たな方向性を導いてくれるのではないかと今後の科学の展開に期待され講座は終了となりました。

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